高い、安い
モノを買うときの判断基準に、
値段の高い、安いがあります。
「安くて良いもの」
誰もが願うことだと思います。
例えばお酢。
スーパーに行けば、1本200円くらいのものから、
1,000円くらいするものまであります。
特価で売られていれば100円を下回るときもありますね。
はたまた、高級といわれるものでは、1本2,000円以上したりもします。
100円以下と2000円……。あまりにも開きがあると思いませんか?
ある製造メーカーは、1円でも安く提供しようと、
血のにじむような企業努力を重ねています。
スーパーの特価で売れる安さで商品を開発していきます。
私たち消費者も、少しでも安いほうが得した気分になるので、
どこよりも安いというものを好んで買うでしょう。
でも、それが本当に正しい消費の仕方といえるのでしょうか?
本来、私たちが判断しなければいけないのは、
それが適しているかどうかではないでしょうか?
1日と1年以上の違い
いわゆる安いお酢は、最短で8時間、長くても24時間で製造されているってご存知でしたか?
お酢は発酵食品。
本来、原料と菌とが混ざり合い、
自然のリズムで発酵するのに要する時間は1年以上。
とても、気の長くなる月日を経てお酢になるわけです。
昔から作られているお酢は、甕や木樽で仕込まれ、膜によって作られます。
甕や木樽に仕込んだ素材と空気に触れる面に、
自然とできる膜……、その膜が「お酢の素」なのですが、
この膜が幾重にも重なっていきます。
その膜がやがて厚くなり、その重みでゆっくりと沈み込む……。
そして やがて表面に新たな膜ができる……。
その過程を繰り返し、旨みや丸みが深まった、
おいしいお酢ができあがっていくのものなのです。
それに比べ、1日以内で造られるお酢は
速醸と呼ばれる方法で仕込まれるものです。
「自然の営みに任せていては時間がかかりすぎる」と、
画期的な方法を開発したのです。
それは、大量の酸素で攪拌させて即席で作り上げるというもの。
よく、魚の水槽に酸素をブクブク供給する機械を見かけませんか?
お酢を作るものはもっと大掛かりな機械ですが、
そういう設備を使って、インスタントにお酢が完成されていくのです。
1年と1日は、この違いというわけです。
原料に使うもの
値段の違いは、原材料にも現れます。
お酢の主な原料はお米。
安いお酢には古々米や、くず米など、
あまり「飯用」としては食べないお米が使われている場合があります。
本来なら捨ててしまうものを使ってでも、どうにか仕上げていく。
こうしたことはあまり珍しいことではありません。
加工度が高く、しかも安価な商品はこうして作られるというわけです。
もうひとつ例を挙げると、5章でも取り上げた醤油。
主な材料は大豆ですが、安いからと「脱脂大豆」が多く使われています。
「脱脂大豆」とは、大豆の脂肪分を抽出して食用油がつくられるのですが、
そのあと残った大豆カス。
「醤油にはタンパク質があればいい」ということで、
この脱脂大豆を使うわけです。
日本で流通している醤油の約8割が原料として使っています。
醤油における大豆の役割は「旨み」。
しかし、このようなカスだと十分な旨みを期待できません。
そこで化学調味料などで味付け・調整を行い
それなりのものに仕上げているというわけです。
このように、早く大量に製造できるように時間を短縮させ
本来口にしないようなものを原料に使い、安く抑える……。
本当にそれでいいのでしょうか?
菌の世界でも
このような違いは、「菌」の世界にもあります。
発酵食品に欠かせない、麹菌、酵母、酢酸菌。
昔は、空中に浮遊する天然菌が使われていましたが、
現在では、工場で化学的に培養された菌を使い醸造しています。
こうして造られた発酵菌は強力。
素材が多少劣悪でも、強制的に発酵で切るように開発されているのです。
大豆のカスであろうと、古いお米であろうと、
いわば力づくで発酵させることができるのです。
劣悪な素材と化学培養菌を使って、安いお酢や醤油が
あっという間に商品化されていく……。
本来の発酵醸造のあるべき姿とかけ離れた形で作られる「お酢」や「醤油」を、
本当に「お酢」、「醤油」と呼んでもいいものでしょうか?
発酵食品は環境も大事
一昔前の発酵食品を仕込むときに使われるものは
もっぱら「杉樽」でした。
「木材は断熱性が良いため、発酵に必要な菌が安定できるから」
と、桶職人はいいます。
自然な発酵を促すためになくてはならないものが、
この杉桶と古ぼかしい「梁(はり)」のある蔵です。
しかし、現代の食品業界は、抗菌抗カビ。
杉桶もホーロータンクにかわり、蔵には木製の梁もなく、
衛生上管理された環境で作られています。
化学培養菌は、他の菌に弱いので、殺菌した環境でないと生きられないのです。
使い古された杉樽には麹カビが住んでいる。
呼吸をできるこの木、湿度が保てるこの木、だからこそ麹菌が活発に働くことができる。
こういう蔵があれば菌を買ってくる必要がない。
どれだけ菌を取り巻く環境が大事であるかが、このことからも分かります。
本来の過程を経て出来る発酵食品
例えば、「おいしい味噌は出汁がいらない」とよくいわれています。
そういう味噌は、厳選された原料と菌を使い、適正な時間を掛けて造られたものです。
なぜそうなるのかというと、答えは簡単。
旨みのもとでもある、アミノ酸の含有量が多いからです。
つまりその味噌自体が、おいしい成分をたくさん作り出しているのです。
旨み成分とはいうなればアミノ酸です。
昆布入れたりするのも、旨みであるグルタミン酸が欲しいから。
また、かつお節はイノシン酸と、そういう旨み成分を付加して、
もっとおいしくしようとするのが、日本の出汁文化です。
本来の発酵過程を経た発酵食品の味噌は、当然出汁を入れてもおいしいですが、
入れなくても充分おいしい。
じっくり時間をかけて、それくらいしっかりした味噌を作ることができたのです。
安い、早いはそれなりにメリットもデメリットもあります。
せっかく身体に取り込む発酵食品なら、
厳選された原料と菌で、適正な時間を経て醸造された発酵食品を取りたいものです。
「安くて良いものはない」適正な価格のものを選びたいですね。